小児脳神経外科
はじめに
こどもは母体にいるときから日々発育・発達を続けている存在です。特に神経系の発達においては、めまぐるしい変化を遂げていきます。その発達過程において発症する疾患の多くは、脳の発達障害、栄養代謝障害、体温・呼吸調節といった生理機能障害、視力・聴力といった感覚器障害などを起こす場合や、なかには生命に関わる状況に至ることさえあるため、早期治療が必要になることがあります。また中枢神経疾患の多くは成長とともに変化するため、後に乳幼児期になって現れうる機能障害を想定して適切な時期に治療がなされることが大切です。我々、小児を専門とする脳神経外科医は、こどもの自然な発育・発達が中枢神経疾患によって妨げられないよう、脳神経外科治療によって目の前の有害なハードルを可能な限り取り除き、成長を見届けていくことを目的としています。
治療の特色
治療対象となる疾患はいずれも非常に特殊性が強く、診療には高度な専門性が要求されます。また水頭症や種々の先天性疾患をはじめとして、腫瘍、脊髄・脊椎疾患、機能的疾患、血管障害、外傷と多様です。当科においては、いずれの分野においてもスペシャリストが在籍しており、一丸となって診療にあたっております。
我々は、適応となる疾患を見極めて、積極的に神経内視鏡手術を取り入れております。水頭症に対する第三脳室底開窓術 (Endoscopic third ventriculostomy: ETV) あるいは透明中隔開窓術・嚢胞開窓術は、体内に異物を留置しないで行える画期的治療法として水頭症治療の可能性を広げました。また、脳室内腫瘍の組織生検、内視鏡の支援を受けた顕微鏡手術など、当科では、最先端医療技術を小児脳神経外科の分野にも積極的に取り入れておりこの分野では日本のトップレベルを維持しています。現在われわれは神経内視鏡手術の可能性を研究し、患者さんへ少しでも多くその成果を還元する努力を日々進めています。
2009年に設立した小児頭蓋顔面形成センター (Okayama Craniofacial Center: OCFC) では、頭蓋縫合早期癒合症(狭頭症)に代表される頭蓋顔面疾患に対して、脳神経外科、形成外科、矯正歯科が中心となり、小児神経科、小児科、小児歯科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科などの多くの診療科による総合チーム医療を行っております。それぞれの科が現在まで培ってきた頭蓋顔面疾患に対する診療技術を有効に活用し、病状に応じた高度な医療の提供が可能となっています。出生前診断、出生後から幼少時期、青年期にいたるまでの全人的医療を目的とした総合的な医療を目指しております。
対象となる疾患
水頭症 | |
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先天性疾患 | 二分頭蓋・脳瘤、二分脊椎(脊髄髄膜瘤・脊髄脂肪腫)、キアリ (Chiari) 奇形、ダンディー・ウォーカー (Dandy-Walker) 症候群、くも膜嚢胞・頭蓋内嚢胞、頭蓋骨縫合早期癒合症、脊髄空洞症、先天性脊椎疾患など |
腫瘍 | 星細胞腫、胚細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、PNET、乏突起細胞腫、脈絡叢乳頭腫、神経節膠腫、AT/RT、松果体腫瘍など |
機能的疾患 | てんかん、痙縮・痙直型脳性麻痺など |
血管障害 | 脳出血、脳動静脈奇形、もやもや病、ガレン (Galen) 大静脈瘤など |
外傷 | 急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、頭蓋骨骨折など |