手術の対象となる代表的な頭部外傷疾患は以下の3疾患です。
1)慢性硬膜下血腫
2)急性硬膜下血腫
3)急性硬膜外血腫

 脳は硬膜という頭蓋骨の下にある固い膜によっておおわれ、保護されています。出血が硬膜の下にあるか、硬膜の上で頭蓋骨の下にあるかによって、それぞれ硬膜下血腫、硬膜外血腫と区別されます。そして、発症の時期によって、慢性、急性かを区別しております。なお、慢性硬膜外血腫という病態はありません。

1)慢性硬膜下血腫は、頭部打撲の後、徐々に血がたまって血腫を作り、それが脳を圧迫することで、慢性期(外傷後1か月ぐらい経過した頃)に、頭痛、片麻痺(右手足の麻痺もしくは左手足の麻痺といった半身の麻痺による歩行障害など)、認知症(物忘れが激しい、もう少し進行すると軽い意識障害)といった症状にて発症します。一般的にはご高齢の方に多いとされています。慢性硬膜下血腫と診断されても、血腫の量(つまり出血量)が少なく、意識障害や麻痺などの神経学的異常所見がない場合は、CTなどの画像検査を続けながら経過観察を行います。一方で、血腫量が多く、意識障害や片麻痺などの神経学的異常所見を認める場合は、穿頭(せんとう)洗浄術(局所麻酔下に小さな穴を頭蓋骨に開けて行う)と呼ばれる手術を行います。一般的なケースにおいては、穿頭洗浄術によって、脳を圧迫している血腫を除去できれば、麻痺などの神経学的異常所見は改善することが期待できます。ただし、慢性硬膜下血腫の一部のケースにおいては、穿頭洗浄術を行っても、再発を繰り返すケースもあり、その場合は再度の穿頭洗浄術が必要になることがあります。

2)急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫についてですが、血腫の量(つまり出血量)が少なく、意識障害や麻痺などの神経学的異常所見がない場合は、慢性硬膜下血腫の場合と同様に、CTなどの画像検査を継続しながら経過観察を行います。ただし、血腫量が多く、重度の意識障害や片麻痺(右手足の麻痺もしくは左手足の麻痺といった半身の麻痺)などの神経学的異常所見を認める場合は、開頭血腫除去術(全身麻酔下に大きく頭蓋骨を開けて行う)と呼ばれる手術を行います。

 急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫に対しては、緊急での手術が必要になるケースが多々あります。われわれ医療チームは、手術の前に認められていた意識障害や片麻痺という症状が、これらの手術によって軽快(すなわち機能予後の改善)することを期待して手術を行うわけですが、外傷の程度が重篤な場合は、術前に認められていた症状が、手術後も程度の差はあれ、後遺症の形で残存してしまいます。また、特に重篤なケースにおいては、残念ながら手術を行っても機能予後の改善は見込めず、命を助けること(すなわち生命予後の改善)のみを目標に、患者さんのご家族と、手術加療を行うかどうか相談させていただく場合もあります。

最後に
 頭部外傷のケースでは、緊急の治療が必要となることも多く、また、頭以外にも外傷が存在する多発外傷のケースも多くみられます。そのため、十分な頭部外傷の治療を提供させていただくためには、救急科、麻酔・蘇生(そせい)科をはじめとする関係他科の先生方のご協力が必ず必要となってきます。今後とも引き続き、これらの先生方との連携を深め、患者さんの治療にあたっていきたいと考えております。

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