通常の薬剤で発作が十分抑制できない、いわゆる「難治性てんかん」に対する治療法としては、開頭手術による外科的治療、未承認の治験薬などがありますが、迷走神経刺激療法(vagus nerve stimulation:VNS)もその一つです。この治療法は、左前胸部に刺激装置を埋め込み、左頚部の迷走神経に電極を取り付けて刺激することで、てんかん発作の回数を減らしたり発作の程度を軽くしたりしようとするものです。開頭によるてんかん焦点切除術のように根治的ではなく、あくまで緩和的ではありますが、低侵襲性(開頭手術や抗てんかん薬の大量服用に比べれば、脳や身体に対する負担が少ない)および調節性(刺激をやめれば元の状態に戻せる)が大きな利点です。また開頭手術の適応とならない発作やてんかん焦点切除術後に遺残した発作に対しても有効性が期待できるので、そのような方にも試みる価値のある治療法です。
1988年にアメリカで臨床応用が始められ、現在、世界のほとんどの先進諸国で認可され、のべ10万件以上の装置植込術・交換術が行われています。薬剤抵抗性てんかんに対する推奨治療のひとつとして確立した治療といえます。日本では2010年に保険適応となったばかりですが、現段階で全国40施設以上において累計600件以上の手術が施行されています。
治療効果についてはこれまでの報告で、2年間の治療後に発作が50%以上減少した患者さんの割合が約50%であることが確認されています。また、発作抑制以外にも、感情の安定、日中の覚醒度や記憶・意識決定能力の向上などが報告されており、全般的な生活の質の改善も期待できます。

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